鹿児島の方言「会話編」 

鹿児島の方言会話

知人を訪問した際の高齢者層が話す簡単な会話例。実際の会話はもっと複雑になり、地方によって微妙にちがった言い方になる。


人 物 方  言  会  話            標 準 語 訳         
女 客 ゴメンナンシ オサイジャスカ ごめんください。いらっしゃいますか。 
女主人 ウンダモウ ユクサ オサイジャシタ あらまあ、ようこそおいでくださいました。
女 客 マコテ ゴブレサア シチョイモス まことに、ごぶさた申しております。
女主人 ホンニ サシカブイ イッキョアゲモシタ ほんとうに、久しぶりに、お会い申しあげました。
 人 物     方  言  会  話             標 準 語 訳               
友 1 ヨウ オイカ(オッカ) やあ、いるかい。
友 2 ヨウ ユ キタネ やあ(いるよ)。よく来たね。
友 1 ゴブレサアバッカイデ スマンコッジャ ごぶさたばかりで、すまないことだ。
友 2 ナイガオマヤ ジャッドン サシカブイ
ジャッタネ
なあに、君。だけど、ひさしぶりだったね。
考察 上の会話で、まず注意したいのは、敬語法のことである。鹿児島では、今でも老年層の会話では厳重に敬語法がが守られている。女性の言葉では上記のように相手に対する尊敬語、ていねい語を用いる。
これに対し、親しい男性の友人間では、きわめてさっくばらんな会話となる。ただし、これはあくまでも対等の友人間の会話であって、質朴な表現の中にも親愛の情がこもる言葉づかいである。
人 物       方 言 会 話                 標 準 語 訳               
後 輩 ゴメンナンシ(ゴメンナシ) ごめんください。
先 輩 ヨウ ユ キタネ マ アガランカ やあ。よくきたね。まあ、上がりたまえ。
後 輩 ヨス ゴアンソカイ よろしゅうございますでしょうか。
先 輩 ヨカ ヨカ いいよ、さあ、さあ。
後 輩 ソンナア ゴブレサアゴアンドン それでは、失礼ではございますが。
先 輩 マ キュハ ユックイセンカ まあ、今日はゆっくりしないか。
後 輩 アイガトゴアス ありがとうございました。
   上記会話にでてきた鹿児島語について
  • 「いらっしゃいますか」は「オサイジャスカ」いま少し、くだけた言い方なら、「オジャスカ」
  • 「あら まあ」は「ウンダモウ」「ンダモウ」とも表記。同じ系列の用語に「ウンダモシタン」 という有名な言葉がある。直訳すれば「俺あ、も、知らん」であり共通語なら「あたし、知らな いわ」となる。
  • 「ユクサ」はようこそのなまり。「オサイジャシタ」も主として婦人用語。友人同士なら 「ユ 来たね」ですまされる。もう少し他人行儀なら「ユッサ来ヤシタ」(ようこそおいでくださいました」
  • 「サシカブイ」は「久しぶりに」。
  • 「イッキョアゲモシタ」直訳すれば「お会い申しあげました」。「イッキョ」は「行きあう」のなまり
 

からいも普通語会話編

「からいも普通語」ということばがある。共通語の言葉がイントネーションやアクセントが鹿児島なまりになっていたり、方言を共通語らしく発音したり、土地の方言と共通語をチャンポンに使っているのを皮肉って言う場合もある。

人物          方 言 会 話                         標 準 語 訳             
コンチハ モ タモイヤシタカ 今日は もう(ごはんは) たべなさいましたか
はあ モ 済ませモシた  はい もうすませました
客  ハメッケヤンドナア 精をだされますね
マ ボッボッ ゴアンガ まあ ぼつぼつですよ
ソイナア マ ボツボツ キバイヤンセ それでは まあ ぼつぼつ がんばつてください
アイガトゴアス モ モドイヤスカ ありがとうございます もう おかえりですか
マタ オ(エ)アゲモソ また お会いしましょう
オヤットサア ゴアンソ おつかれさまでした
タモヤイヤシタカは(ご飯を)食べなさいましたかのタモルについて。タモルは「食べる」「食う」のていねい語。「メシュク(飯を食う)」などよりは、はるかに上品な言い方である。「タモンセ」とか「タモハンカ」という言い方もある。直訳すれば「「タモンセ」は「くださいませ」「タモハンカ」は「くださいませんか」という敬意表現である。「こら 使いに行ってこい」というより「ちょっとツケ イタッキツクイヤイ」といえばいくらか丁重になる。さらに「ツケ イタッ来ッタモハンカ(タモンセ)」などどいわれたら丁重この上もないことばで、頼まれた方はいやでも行かずばなるまい。
ハメッケヤンドナア(精をだされますなあ)のハメックイについて。これは「精出す、励む」意の「ハマル」に「付くる」を付けてついに「ハメックイ」となったものと思われる。共通語らしくいえば「ハメッケル」になる。
キバイヤンセ(がんばりなさい)のキバルについて。語源は「気張る」。「がんばる、精出す、励む」の意の外に「奮発する」の意味がある。ある時、建築の工事費を、も少しキバッテ安くしてもらえないだろうか、あっさりいえば「負けてくれ」という気持ちで
「モチット、キバックイヤンセ(もう少し、奮発して、負けてください)」といったところ「ソゲン、キバレバ、ウンコガ ハッデイ(そんなに力むと、ウンコが出てしまう)」と答えた。当方の意図は万々承知の上で、わざとはぐらかした答である。
次に愛児を亡くした母親にたいするお悔みのことばの「キバイヤンセ」の意を考えてみたい。「トゼンネ ゴアンソドン キバイヤンセ」(さびしいでしょうが、がんばってください)この会話例は「がんばってください」という、通りいっぺんのあいさつではなく「どうか、この寂しさ、つらさをじっとたえ忍び、あなたまで病気にならないよう、気をとりなおして、がんばってください。という思いをこめての言葉である。このようにいきなり共通語に訳しきれないところに方言の味もある。
マタオアゲモンソ(またお会いしましょう)。直訳すればまたお会い申し上げ申そう」という別れのあいさつ語。今の子供達は、共通語で「さようなら」。大人たちはそれをなまって「ソイナア」。時には外来語で子供達の用語バイバイ(bye-bye)を使う者もいる。しかし、「さようなら」にしても、本来はその下に続けて、かならず「これにておいとまします」「またお目にかかりましょう」などの言葉があったはずである。薩摩の大人たちも別れ際に、ただ、ぶっきらぼうに「ソイナア」とだけ言って、別れるようなことはしなかった。「マタ オアゲモンソ」とか「マタ ゴアンソ」(またお会いしましょう)と言った。
オヤットサア(お疲れさま、ご苦労さま)語の構成は共通語の「お疲れさま」と全く同じ。すなわち「疲れ」の上に「お」、下に「さま」のていねい語をつけた形。
参考文献;九州地方の方言「図書刊行会」 鹿児島語の世界「牛留致義」等

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