頴娃の方言

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濱崎裕功氏からの投稿文をHTML化して、原文のまま掲載させていただいています。

 作業をはじめて分かったこと。@一人ではダメA旅行・宴会の場はダメB人頼みもダメ。一定の集団がきちんと時間を取って論議し合うことの大切さを痛感しました。このような条件を持てませんでしたので,私の独断と偏見,貧困な語彙での「修正内容」であることをご承知おき下さい。また,文法上の間違いも多々あるかと思いますので,訂正を願いする次第です。同時に,エイゴだったら,こう表現するだろうなと考え,標準語の例題から一部逸脱した部分もあります。赤字が修正した個所で,一部「注釈」を加えました。

(1)標準語訳    お前達は 6時前に 起きなければ いけないよ。

   開聞町方言訳  オマイタジャ ロキジマエニ オキランニャ イガンド

   頴娃語訳   ワイドマ ロクジ マエニャ オギラント スマンド ソラ

(注釈)この文章は,目下の者に対する命令形と判断されるので,「お前達は」=ワイドマとなる。同輩ならワイタジャ,目上にはオンドマと表現する。ロキジはロクジの間違いと思うが,「六時」だけならロッジと促音便,「前に」=マエンと撥音便形となる。この場合は「六時+前には」=ロクジ+マエニャとなる。「起きなければ」=オギラントと濁音となり,=撥音便+格助詞の「ト」を付ける。「いけないよ」=イカンドであるが,この場合「スマンド」が一般的で,その後に注意や緊張を促す感動詞の「ソラ」を付けて,スマンド+ソラとなる。「いけない」の用例は微妙で,「否定の意味合い」の強い場合は「イガン」,「未来の確定や可能性」を含む場合は,「スマン」が使われる。

(2)標準語訳      旅行は 延びるか 延びないか まだ わかりません

   開聞町方言訳  タバ ヌッカ ヌバンカ マダ ワガラン

   頴娃語訳    タバ ノビイカ ノバンカ マダ ワガランド

(注釈)「延びる」=ヌッカも皆無ではないが,「暑い」のヌッカとの混同を避けるためかどうか知らないがノビル・ノビッが一般的である。

エイゴは,助詞・助動詞の変化で,自分と相手の関係を表す点が大きな特徴である。目下・同輩なら「ワガラン」,目上の人や女性が男性に云う場合には「ワガランド」,もっと丁寧な場合には「ワガランドナ」となる。(ヌッカは鹿児島方言で,エイゴではニュッカ,同意を求める「暑いな」=ニュッカニーと云う。この場合も目上の人にはニュッカナーと助詞が変化する)

 

(3)標準語訳      売っていないのなら 借りるよりほか しかたがあるまい

   開聞町方言訳  ウッチョラントナラ カイヨッカイベジ シカダワアイメ

   頴娃語訳   ウッチョランナラ  カイヨッケン   ショガアイメ

(注釈)ウッチョランナラの「ト」は無声音に近く,省略するのが普通。「借りるより他」=借りる+他を,一緒にして「カイヨッケン」となり,「別に」=ベジはほとんど省略する。「仕方が」=ショガ,「あるまい」=アイメとなる。

 

(4)標準語訳      あいつは 仕事に あきると すぐ 遊びに出る

   開聞町方言訳  アンヤジャ シゴジ アゲバ   イッキ アソビデイ

   頴娃語訳   アンワロハ シゴジ オデチケバ イッキ アスンケ ハッジュイ

(注釈)「あいつは」=アンヤジャであるが,この場合,軽蔑の意味を込めて=アンワロと表現,「あきる」=オデチィ,「あきると」=オデチケバ,「遊び」=アスン,「遊びに」=アスンケ,「出る」=意味を強める接頭語のハッを付けて,「出る」=ハッジュィ,「出た」=ハッジダ,「出かけよう」=ハッジゴィとなる。

 

(5)標準語訳      外出しないで 今日は 勉強しなければ ならない

   開聞町方言訳 ソテデランジ キュハ ベンキョオ センニャ ナラン

   頴娃語訳   キュハ ソデデランジ ベンキョヲ センニャ イガンド ソラ

(注釈)開聞町方言でも良いが,「今日は+勉強を」と名詞を続けないで,主語+述語の形がエイゴらしい。意味を強める倒置法は,この場合は使わない。「外」=ソドと濁音になる。ベンキョオ=ベンキョヲと「お」が「を」となる。「ならん」=例文(1)に同じ。

 

(6)標準語訳      私が 落とした本は たしかに 拾った人が あると思う

   開聞町方言訳  オイガ シッチャヤゲダショモジャ カナラシ ヒロダヒトガ アッチュオモ

   頴娃語訳   オガ シッチャィケダ ショモジャ ダイカガ ヒロジョィハッジャイガニー

(注釈)オイガ=オガ,「落とした」=イ音便となり「シッチャィケダ」。例題からは外れるが,「たしかに」=断定を表す場合「誰かが+拾っているはずだ」が一般的用法で,「誰か」=ダイカガ,「拾っている」=ヒロジョイ,「筈だ」=推量の助動詞ガニーを付けてハッジャイガニーとなる。「本」=最近ほとんどがホンで,ショモッ=古老や専門書のような難解なものを表現する時に使用する。

 

(7)標準語訳      便りが こなくても 案じないで 待って おいで

   開聞町方言訳 テガンガ コンデン シンパイセンジ マッチョイヤイ

   頴娃語訳   テガンガ コンテン シンパイセンジ マッチョイヤイ

(注釈)これで結構です。「こなくても」=コンテンと清音。

 

(8)標準語訳      よくご覧 これと それと どっちが 古い

      開聞町方言訳  ヨガフニミレ コイト ソイト ドッチガ フンノカ

   頴娃語訳   ヨガフニミレ コイト ソイト ドッチガ フンノ

(注釈)これでも良いが,「古い」=フンノガと濁音となり,疑問の助詞ガをつける。標準語を正確に翻訳すれば正解ですが,波線を付け足した言い方がよりエイゴらしい。

 

(9)標準語訳      お医者様に 早く 見てもらう方が いいでしょう

      開聞町方言訳 イシャドンニ ハヨ ミジェモロダホガ ヨガロ

   頴娃語訳   イシャドンニ ハヨ ミゼッモロダホガ ヨガロ

 

10)標準語訳       畑に 花が 咲いた。黄色なのは 菜の花で 白いのは 大根だ。

      開聞町方言訳   ハダゲ ハナガ セダ。キイロガトワ カラシノハナデ シロガトワ デコンジャ。

   頴娃語訳   ハダゲン ハナガ セダ。キイカタ カンノハナデ シロガタ デゴンジャッド。

(注釈)「畑に」=ハダゲン。この場合,「畑に」「畑の」のように助詞による区別はない。キイロガトワ=キイカタのように「トワ」は短音形の「タ」になる。大根+だ」=デゴンは二連続の濁音+ジャッド。

「菜の花」は以前の質問以降,次のことが分かりました。江戸から明治の頃までの品種は,短茎の品種でカッスイと呼ばれ,大正か昭和に長茎種を「カラシ」と呼ぶらしい。それを含めて「カッ」なのか?お手数ですが農事試験場などに問い合わせると何か分るかも。

 

11)標準語訳   むずかしい本でも 仮名を つけたとなら おれにも読める

      開聞町方言訳 ムッカシショモッジャッテン カナオ ツケダノナラ オイモ ヨンガナッ

   頴娃語訳   ムンカィガショモッデン カナヲ チケダトナラ オイモ ヨンガナッ

(注釈)むずかしい=ムンカシガのシは無声音に近い,カナオ=カナヲ,ツケダノナラ=チケダトナラ,ヨンガナッorヨンガナッド「丁寧語」。鼻音や鼻濁音がより色濃く残っていることもエイゴの特徴ではと思う。

 

12)標準語訳      こんな うるさいところでは 何ひとつ 考えられない

      開聞町方言訳  コニュン ズッナガトコイジャ ナイモ カンゲワナラン

   頴娃語訳   コニュン ズッナガトコイジャ ナイモ カンゲガナラン

(注釈)「考え+られない」=カンゲ+ガ+ナランと「考え」を名詞+格助詞+否定の助動詞として使用する。

 

13)標準語訳   去年は 行かれなかったけれど 今年こそ ぜひ 行くつもりだ

      開聞町方言訳  キョネンナ イッガナランジャッタバッ コトシャ カナラシ イッツモイジャ

   頴娃語訳    キョネンナ イッガナランジャッタバッ コドサ ドゼンコゼン イッツモイジャ

(注釈)「今年」=コドイ,「今年は」=コドサ,「今年こそ」=コドイコイと変化。「必ず」=どうしても・こうしても意味する「ドゼンコゼン」と表現する。

 

14)標準語訳  たしたちは みょうなことに 母に しかられるのが 一番 恐ろしかった

      開聞町方言訳オイドマ ミヨナコジ カガガイ ガラルットガ イッバン オドロシカッタ

   頴娃語訳  オイドマ メナコジ カガガイ ガラユットガ イッバン オドロシカッタド

(注釈)妙な=メナ,妙なこと=メナコジとはっきり「メ」と発音する。「恐ろしかった」=断定の助動詞?「ド」をつけるのが一般的。

(蛇足)「叱られる」=ガラユッと「ガ」のアクセントが強すぎるため,ガラルットの「ル」と「ユッ」が単純に置き換わった以上に語感の違いがある。

 

15)標準語訳        すみでお書きなさい。筆はどこです。

      開聞町方言訳    スンデ カゲヨ。フデハ ドゲアット。

   頴娃語訳    スンデ カゲヨ。フデハ ドゲアイケナ

(注釈),誰が誰に話し掛けているかの解釈の違いにより,微妙に変化することは以前に触れたとおり。目上の命令なら=ドゲアイケナorドゲアットナ,同僚ならドゲアイケorドゲアットとなる。「アイケ」と「アット」は場所や時間の広がりの違いで使い分けているように思う。?

 

16)標準語訳        おい 本をどれか とって くれ

      開聞町方言訳    オイ ショモジュ ドイカ トックレ。

   頴娃語訳    オイ ドイカ ショモジュ トックレ。

(蛇足)これで結構です。でも,文法からの逸脱かも知れないが,私の語感では呼びかけの感動詞の次には形容詞が来ます。言語習得時期はエイゴ圏でしたので,これはエイゴかも知れない。

 

17)標準語訳        どなたも お静かになさい。 さわがずに いてください。

      開聞町方言訳   ミンナ ダマレ。ソドオセンジオックレ。

   頴娃語訳    ミンナ ダマッチョックレ。ソドセンジオックレ。

(注釈)単純命令形の「静かにしろ」=ダマレであるが,標準語は依頼を含んだ命令形なので=ダマッチョックレ,もっと丁寧「静かにしていただけませんか」=ダマッチョックレヤイとなる。オはヲです。

 

18)標準語訳      あのみかんは すっぱいから 捨てよう。とても食べられるもんか。

      開聞町方言訳  アンミガンナ シガデ ウッス。ゲッセ クガナイムンカ。

   頴娃語訳   アンミカンナ シガデ ウッス。ガッツイ クガナイムンカ。

 (注釈)みかんは清音で「ミカン」,ゲッセよりはガッツイが一般的。

 

19)標準語訳         わたしが教えてあげよう

     開聞町方言訳     オガ イッカセックルイガイ

   頴娃語訳      オガ イッカセックルッデ

(注釈)「教える」=イッカスイ,「あげよう」=クルッデと表現し,クルイガイは鹿児島の方言だと思います。

(蛇足)普段何気なく使っている「…あげる」はいつも気になる言葉です。モノノホンによると「自分が他人に物を与える」ことをヤルと言い,「他人が自分に物を与える」ことをクレルと云います。ヤル/クレル体系は関東から九州中央部にかけて本州中央部に広く分布するが,九州南部ではこの二つの意味分野ともクレルと呼んで区別しない。とあります。私の語感も都会化ナイズした証拠ですかね。でも,「オガ イッカスッデ」は気になります。尊敬語との混同の疑問も湧いてくる。私が変かな。

 

20)標準語訳         新聞は そっちにないか。はいございません。

     開聞町方言訳     シンブンナ ソッチ ナガガ。イヤ アイモサン。

   頴娃語訳      シンブンナ ソッチ ナガガ。イヤ ナガド

(注釈)アイモサンは最上の敬語で,間違いではありませんが,例題は夫婦の会話と解釈すればナガドが一般的。

 

21)標準語訳        それは 先生の 本か。いいえ 学校のです。

     開聞町方言訳    ソンタ センセイノ シュモッカ。ンニャ ガッコントジャッド。

   頴娃語訳     ソンタ センセイガ ショモッカナ。ンニャ ガッコント。

(注釈)親しい同僚の先生の会話あるいは,生徒の質問と想定すれば,これで結構です。間違いではないが,ショモッカナと「カナ」を付けて同僚間でも尊敬の表現をとる。最後のジャッドは,普通省略します。

 

22)標準語訳       今夜は 冷えるから 夜中に 雪が 降るだろう

     開聞町方言訳   コンニャハ ヒュッデ ヨナゲナ ユッガ フッジャロ

   頴娃語訳    コンニャハ チビンダガデ ヨナゲナ ユッガ フイカモ

(注釈)「冷える+から」=チビン+ダガと表現する。「降るだろう」=の解釈の違いにより,「断定」ならフイガ,「可能性」を含むとフイカモ,フッジャロは普通使わない。

温度や気温を表現する言葉はかわっている。お湯の温度を表現するときは「熱い」=イダガ,「冷たい」=チビンダガ,気温は「暑い」も「暖かい」=ヌッカ,「寒い」=ヒヤガ,気温が「冷える」の場合も「チビンダガ」を使用する。

 

23)標準語訳   その柿は 赤いけれども しぶかろう

     開聞町方言訳 ソンカガ アガガバッ シッカロ

   頴娃語訳   ソンカガ アガガバッ シッカロソナ

(注釈)これでよいと思いますが,「渋かろう」には推量の意味が含まれているので,渋そうだ=シッカロソナが一般的です。

 

24)標準語訳   蚊さえ 少なければ 夏は 冬より しのぎやすい

     開聞町方言訳 カゼガイ スッナガヤ ナジャ フイヨッカイ キバイヤシカ

   頴娃語訳   カセガ  スンナガトナラ ナジャ フイヨッケ キバイヨガ

(注釈)「…さえ」=セガ,「少なければ」=スンナガトナラ,「…より」=ヨッケ,「…やすい」=ヨガと表現する。

 

25)標準語訳      あの方は 山田さんと言われる かたです

     開聞町方言訳  アンヒトハ ヤマダサンチューヒトジャッド

    頴娃語訳   これでよいと思います。

以上